Win-Winの関係が六次産業化をダメにする〜ビジネスパートナーの選び方〜
▼Win-Winとは?
「Win-Win」という言葉、誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。
『大辞泉』によれば、「双方がうまくいっていること。特に政策において両者にとって適度に都合がいいこと」とある。つまり、私とあなた双方にとってメリットのある良好な関係であることを示した言葉である。
商売というのは、一方だけが得をするのではなく、双方に利益があってはじめてうまくいく。当然と言えば当然の考え。しかし、僕はこの「Win-Win」の関係が六次産業化をダメにする要因だと考える。
▼ビオファームまつき代表取締役会長 松木一浩さんから学ぶ「上手くいくWin-Winの関係」
先日、静岡県富士宮市にあるResturant Bio-s (レストラン ビオス)で、ビオファームまつきの代表取締役会長である松木一浩(まつき かずひろ)さんのお話を伺ってきた。
松木さんといえば、農業界では六次産業化のトップランナーとして有名だ。元々高級フレンチレストランで給仕長をしていたが、15年ほど前に農業に転身。以来、有機農業を軸にして、ニンジンジュースの製造販売やイートイン可能な惣菜屋の経営などを行う。現在では、レストランビオス含め、3店舗の経営と数ヘクタールの畑で野菜を生産している。
●成功事例:ガス会社とのコラボレーション
それに加え、松木さんは静岡ガスとコラボして、料理教室を開催しているそうだ。教室では「ビオファームまつき」でとれた新鮮な有機野菜を使い、松木さんがおいしい料理を直接生徒さんたちに教える。
この料理教室の案内は、静岡ガスが発行している請求書に同封される。これによって、静岡ガスの利用者に「ビオファームまつき」の名前を知ってもらうことができるし、もちろん教室の参加者とは直接繋がることができる。
これを独自の広告として打つには膨大な費用がかかるし、見てもらえない可能性もある。しかし、ガス料金の請求書に同封することで、定期的におそらく数万件に無料で行き渡らせることができ、かつ、目に触れやすい。
静岡ガスにとっては、料理教室を自社のショールームクッキングスタジオで開催する事で「ガスの良さ」を伝えることができる。
▼Win-Win-Winという視点の必要性
松木さんは、コラボする相手は「自分たちと同じターゲットをもつ企業」を選ぶことが大切だと話す。(自分たちより大きいところを選び、他人のふんどしで相撲をとるも話していたが・・・(笑))
3番目のWinとは言うまでもなく、顧客(ターゲット)のことだ。
料理教室では、料理に興味のある東京ガスの顧客が、「食」の世界で有名な松木さんに料理を習うことができる。そして、美味しかったからレストランにも行こうと思うことができる。つまり、顧客も満足できる関係になっているのだ。
ごくごく当たり前のことを言っているように思うかも知れない。だが、六次産業化を例にしていえば、意外とこの視点が忘れられている。
▼表面的なWin-Winの関係の怖さ—六次産業の事例ー
例えば、農業者が生産(第一次産業)だけでなく、食品加工(第二次産業)、流通、販売(第三次産業)にも主体的かつ総合的に関わることによって、今まで第二次・第三次産業の生産者が得ていた付加価値を、農業者自身が得ることによって農業を活性化させようとする「六次産業化」の動きのなかで、一体どれくらいこの視点が意識されているだろうか。
農作物を生産し、加工し、販売する。でも、いざ商品ができたら、「さぁ、どこで売ろうかな。あれ、困ったな売れないぞ」といった事態に陥る。
生産物を加工して販売することに目がいきがちで、「加工してくれそうな所とコラボする」「原材料を提供してくれそうなところとコラボする」といったWin-Winの二者関係しかなく、それぞれの顧客が喜んでくれるかという視点は忘れ去られている。
●成功事例:ホテルとのコラボレーション
松木さんは、料理教室以外にも静岡のホテルでフェアの一環として、料理を提供することがあるらしい。ビオファームまつきのスタッフにとっては、忙しい時期にオーナーが他店(ある意味ライバル店)で働いていることは理解しがたいことのようだが、顧客にとっては、アクセスの問題で普段なかなか松木さんの料理を食べられない悩みが解消されてとても嬉しいらしい。
▼六次産業を成功させるもうひとつのWin
このように、ビジネスパートナーを選ぶ上では、Win-Winの関係だけでなく、もうひとつのWin、すなわち顧客のWinを意識し、それを実現させるために、「自分たちと同じターゲットをもつ企業」選び、「自分と相手に既についている、それぞれの顧客が求めているサービスを提供する」ことが大切である。
